研究概要 |
本研究においては、光異性化によって生成する分子が基底状態においても安定に存在することを利用して、結晶中の分子間相互作用とエネルギー散逸機構、およびダイナミクスについて解明することを目的として実施し、以下の成果が得られた。(1)1,2-bis(2,5-dimethyl-3-thienyl)-perfluorocyclopentene(DMTF)の開環体微結晶に紫外光を照射し、閉環体を生成させると2つの構造の異なる閉環体が共存することを発見した。溶液中では安定に存在しない、構造が歪んだ分子がなぜ結晶中で安定に存在することができるかについてクラスターモデルを用いて説明できた。(2)1,2-bis(3-methyl-5-phenyl-2-thienyl)perfluorocyclopenteneのピコ秒時間分解ラマン分光ではストークスラマンバンドが観測されたが、アンチストークスラマンバンドが観測されなかった。結晶中では溶液に比べて振動緩和がかなり速いことを示唆している。(3)4'-N,N-diethylammino-3-hydroxyflavone結晶には針状結晶と板状結晶が存在することを見出した。これらの結晶においては分子間水素結合によって異なる構造をもつ2量体が形成されている。針状結晶は芳香環がねじれているが、板状結晶は平面的である、二つの結晶の蛍光スペクトルの温度変化を測定したところ、針状結晶の場合にはNormal型分子からの共鳴蛍光の他に電荷移動による発光が観測された。Normal型分子の励起状態と電荷移動状態の間にはポテンシャル障壁が存在することが分かった。これは、極性溶媒中の励起状態とは異なる新規な結果である。板状結晶からは、電荷移動状態からの発光のみが観測された。このように励起状態ダイナミクスは結晶構造に著しく依存することが示された。
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