研究概要 |
高緩和性MRIコントラスト剤創製に向け,前年度に引き続き1.超分子Gd(III)錯体の構造解析,および新たに2.速度論的安定性の評価を行った. 1.モデルとなるAg-Tb-TCAS系について種々のpH,溶媒組成を検討し,DMFの蒸気拡散法により三元錯体の単結晶を得ることに成功した.結晶構造解析したところ,錯体の組成はNa_9[Ag^I_4Tb^<III>(tcas^<8->)_2]・dmf_<8>・(H_2O)_6であった(Ag^I_4・Tb^<III>・TCAS_2と略記).本錯体は二つのTCASが4重のS-Ag-S架橋により結ばれたdouble-cone形状をとる.一方Tb^<III>イオンは錯体の中心部に位置し,上下のTCASから計8個のフェノール酸素の配位を受けている.一方NMR緩和過程で重要となる配位水分子は見られず,Ag^I_4・Gd^<III>・TCAS_2錯体はMRI造影剤としては適合しないといえる.しかし本Ag^I_4・Tb^<III>・TCAS_2錯体は,前年度明らかにしたAg^I_2・Tb^<III>_2・TCAS_2錯体のdouble-cone構造を間接的に支持する重要な結果である. 2.超分子錯体の速度論的安定性は,MRI造影剤への応用の前提となる.前年度その存在を明らかにしたAg^I_2・Tb^<III>・TCAS_2錯体について,キャピラリー電気泳動反応器により加溶媒分解反応速度定数k_dを3.1×10^<-3>s^<-1>と決定した.これは半減期t_<1/2>=3.8分に相当し速度論的安定性の向上が必要であった.そこでAgリンカーを用いないランタニド-TCAS二元系について種々検討した結果,Tb^<III>過剰の条件でTb^<III>_3・TCAS_2錯体を得た.k_dを決定したところ5.5×10^<-4>s^<-1>(t_<1/2>=21分)となり,安定性の向上に成功した.また配位水分子数は2.2となり,Gd^<III>_3・TCAS_2錯体の高緩和性が示唆された.
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