研究概要 |
今年度はクリプトンの共鳴吸収線である123.6nmの真空紫外域での吸収分光を行った.低圧では共鳴吸収線のスペクトル広がりは対称的であるが,高圧になるにつれて吸収スペクトル形状は非対称性を示した.理論的に共鳴吸収線の長波長側に遷移波長が存在するクリプトンダイマーからの吸収の寄与であると仮定し,スペクトル広がりのフィッティングを行い,非対称成分のスペクトル幅の圧力依存性等の諸特性を測定した.その結果,圧力とともに単調増加するスペクトル成分が抽出された.理論的には圧力の二乗に比例してダイマー密度は増加すると考えていたことから,実験結果,理論結果ともども見直しを含め検討を加えた.その結果,この非対称成分はクリプトンダイマーの生成によるものと結論づけた.生成したクリプトンダイマーはその吸収波長帯が126nm近辺にあることからこのダイマーをアルゴンエキシマランプ(中心波長126nm)で光励起したところ,アルゴンエキシマスペクトルの著しい吸収が見られ,同時にクリプトンエキシマ発光(波長147nm)が観測された.アルゴンエキシマスペクトルはクリプトン原子の共鳴吸収の影響を強く受けると思われ,低圧化ではKr+hv→Kr*, Kr*+2Kr→Kr_2*+Krのような圧力の二乗に比例する通常の三体衝突反応によるクリプトンエキシマ生成が進行したが,高圧側ではKr+Kr→Kr_2, Kr_2+hv→Kr_2*と推測される圧力の一乗に比例するクリプトンエキシマの発光が得られた.理論的な化学平衡の結果と比較しても定性的にはよい一致を示している.このクリプトンエキシマ生成のデータを基に高圧クリプトン内でのプラズマ生成を試み,この場合も波長147nmのエキシマ発光を観測するに至った.これらの成果より,超高圧希ガス内では新しい希ガスエキシマ生成チャネルが存在することを初めて実証できたと考えている.
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