研究概要 |
勾配を与えた初期の-様斜面から河道になる部分を次々と削り込むことで流域を生成する模擬流域発生手法をまず考案した.その際に,(1)Hortonの浸食による流域発達の考え方から掘り下げられた河道に注ぐ落水線のうち最長のものを新たな河道とする,(2)河道に接する斜面は安息角となるように削られる,(3)河道の縦断形は勾配一定または指数関数曲線とする,としている.このようにして,河道網の発達に伴い模擬流域は削り込まれて浸食発達させる.また,新河道となる落水線の選出には,最長落水線長に近い長さを持つ複数の落水線を新河道候補とし,その中からランダムに1本を選出するという手法をとっている.さらに初期設定パラメータについて検討した模擬流域発生実験を行い,Hortonの法則やStrahlerのhypsometric曲線といった模擬流域上の流域地形量について考察した.その成果として,分岐比,河道長比が実流域における値や統計則と整合したこと,hypsometric曲線が実流域の特性と一致した。 ただし、上記手法には、河道・地形の浸食方法に人為性があり、かつ、そのために時間の概念が含まれていないという問題があった。そこで、斜面・河道の形成手法を改良し,実際の斜面・河道発達過程の観察から得られた,偏微分方程式による数理モデルを導入した.この結果,河道発生数30で初期平面地形から平衡形の出現までにかかった時間は300万年となった.日本列島における地質学的観察から日本列島の山地地形は約170万年でかなり平衡形に近づくと推定されているため,本研究の模擬流域地形の平衡形の出現までの時間はおおよそ妥当な値となった. 以上により、物理的にも確率統計的にも整合性のとれた、しかも時間の概念を導入した、模擬流域の発生手法が開発できたことになり、今後の様々な解析への応用を考えると、萌芽研究故のまたとない成果が得られたと考えている。
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