研究概要 |
本年度は,土木計画における公共受容や合意形成の問題を考える上で,個人の心理的傾向性として「大衆性」に着目した.そして,オルテガの政治哲学理論を踏まえ,行政行為が一切変化しない状況でも,公衆が大衆化することで公共事業に対する合意形成が困難となるであろうという仮説を理論的に措定した.そして,大学生100名を対象としたアンケート調査を通じて,その仮説を実証的に検証した.その際,大衆社会論の代表的古典であるオルテガ著「大衆の反逆」(1930)を基にして構成された個人の大衆性尺度を用い,それら尺度が,政府・行政や公共事業に対する態度に及ぼす影響を分析した.その結果,本研究の仮説が支持され.大衆性が公共事業に対する合意形成を阻害する可能性が示された.以上の結果は,人々の大衆性が昨今の行政不信と公共事業を巡る合意形成問題をもたらし得る本質的な原因であり,そうした問題の解消にあたっては,人々の大衆性を低減することが本質的課題であることを示唆するものである. 次に,以上の先行研究を受けて,個人の大衆性を低減するための方途を探ることを目的として,人々とのコミュニケーションを通じた態度変容施策の一つとして,「読書」の効果について実証的に検討した.そして,内村鑑三著「代表的日本人」(1908)に着目し,本書を通読することによって,人々の大衆性が低減するという仮定を措定し,実証実験を通じて本仮説を検証した.その結果,本研究の仮説が支持され,「代表的日本人」を通読することによって,人々の大衆性が低減し得る可能性が示された.
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