研究概要 |
膜融合と言う基本的な生命現象を,酵素や融合タンパクなどの生体由来物質を一切使用せず,完全な化学反応だけで引き起こすことを計画実施した.開発を目指すシステムは,融合の分子機構解明や新しい薬物送達システムの構築などに役立つ技術を提供するものと期待できる. 今年度は前年度の成果に基づいて主に共焦点レーザー顕微鏡を用いて膜の形態変化について研究を実施し,以下のような成果を得た. (1)まず初めに生成系の膜の物性解明を目的として以下のような実験を行った.すなわち生成物となる擬似セラミドとレシチンの割合を種々変えて,薄膜法によって形成された多重膜を超音波処理したとき生成する1枚膜ベシクルの大きさあるいは分子集合体の形態を観察した.その結果,擬似セラミドの割合とベシクルのサイズとの間に相関性が見られることが分かった.このことは臨界充填パラメータの大きな脂質を含むほどサイズの大きなベシクルが安定になることを示しており,当初の予想通り,反応によって誘起される曲率変化が膜融合の起動力であることが示唆された.また,擬似セラミドの割合を大きくすると膜がその形態を保てなくなることが明らかとなった. (2)上記で得られた知見に基づき,融合に最適な脂質割合において擬似セラミド合成によって引き起こされる膜の形態変化を検討した。その結果,対照群と比べ3時間で数μmの大きなサイズのベシクルが数多く生成することが観察された.反応時間を更に延長すると20μm以上の長さの棒状の膜が生成した。球状ではない形態の膜の生成理由として使用している擬似セラミド分子に固有の現象かあるいは内水相の容積減少によるものかは今後の検討課題であるものの,元来,神経細胞にセラミド型の脂質が多いことが知られている点で,前者に起因するものであればこの形態変化は非常に興味深い.
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