研究概要 |
本研究では,昨年度103名の小児白血病患者のPKデータより非線形混合効果モデル(NONMEM)を用いて算出した母集団薬物動態(PPK)パラメータの有用性を評価するために,多施設共同自主臨床試験であるMLL03において,新たにエントリーされた29名の小児患者に適用した。その結果,新たに評価した患者においても,血中濃度実測値と求めたPPKパラメータを用いて算出した予測濃度の相関は良好であった(r=0.777)。本PPKパラメータをPEDAに組み込み,採血ポイント数を現行試験投与の6点から3点,2点,あるいは1点と減じた場合の採血ポイントは,新たに評価した29個体においてブスルファン(BU)経口投与後,2hr&3hr&6hr(3点),2hr&6hr(2点),6hr(1点)となり,103名の小児患者より求めた採血ポイントとほぼ近いものであった。また,(ベイズ推定CL/F)/(実測CL/F)比の平均値±S.D.値は,0.927±0.115(1点)〜0.970±0.089(3点)であり,3点なら概ね満足しうる予測値が得られることから現行の採血点を半分以上削減できる可能性が示唆された。 一方,新生児ではBUの主代謝酵素である可能性が考えられるπクラスのグルタチオンS-転移酵素(GST,以下GSTP1)のうち,日本人でもっとも高いアレル頻度(15%)で認められるアミノ酸置換を伴う多型I1O5VのBU代謝酵素活性に及ぼす影響を明らかにするため,野生型のGSTP1,GSTP1(I105V)および陽性対照として成人におけるBUの主代謝酵素であるαクラスのGST(GSTA1)の野生型酵素をコードするcDNAをそれぞれクローニングし大腸菌に発現させた。精製酵素におけるCDNB代謝酵素活性はほぼ過去の文献値と一致しており,活性のある酵素タンパク質が得られたことを確認した。臨床血中濃度でのBUの代謝酵素活性を基質減少で測定し,比較したところ,GSTP1はGSTA1の69%の活性を示し,多型のGSTP1(I105V)は,野生型GSTP1の70%と低かった。以上の結果より,GSTA1とP1の発現量比ならびにGSTP1の多型の存在が新生児におけるBUの薬物動態の個体差に寄与する可能性が示唆された。
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