本研究では、脊椎動物の生きた個体において幹細胞をprospectiveに同定することを目的とした。そのために、生きた個体において細胞の分裂、移動、極性などの「細胞のふるまい」を観察できるメダカを用いて、標識した個々の細胞のふるまいのパターンを解析することにより、自己複製する幹細胞を同定することを目指し、そのための基礎技術の開発を行った。 これまでに作られた細胞動態運命地図では、1細胞の標識は、蛍光色素の微量注入法が用いられてきた。しかし、蛍光色素が細胞分裂により希釈されるため、標識細胞を追跡できる時間には限界がある。そこで、標識した細胞が、何度分裂しても蛍光を持ち続ける方法を開発した。体の全ての細胞で働くと考えられるelongation factor alphaのメダカのプロモーターにGFPレポーター遺伝子を繋いだコンストラクト(京都大学 木下博士より分与)を用いてトランスジェニックメダカを作成し、この胚から1細胞を移植することにより、標識細胞が長時間にわたって蛍光を持ち続けること可能にした。しかしながら、細胞の移植ができる時期が発生初期に限られるため、ヒートショック遺伝子のプロモーターにCreを繋ぎ、loxPで夾んだスペーサー断片が切り出されると蛍光を発するコンストラクトを作成を進めている。 次に、胚発生期以降、経時的に、幹細胞が生成されるまでの長時間、標識された細胞の移動、分裂、形態の変化を記録した。現在、蓄積されたデータの解析を行い、幹細胞のふるまいの規則性から、生きた胚で組織幹細胞をprospectiveに同定できるかの検証を進めている。
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