研究概要 |
デコリンは,分子量約40kDaの細胞外マトリックスタンパク質であり,コラーゲン原線維の形成と安定化に関与するほか,EGF受容体等に結合して,細胞増殖,分化,アポトーシスを制御することが報告されている。近年,デコリンの細胞増殖抑制能に注目が集まり,デコリン遺伝子を癌の遺伝子治療に用いる試みが行われている。今回,我々は,デコリンのN末端に存在する特徴的な高次構造(CX_3CXCX_6C)に着目し,CX_3CXCX_6C構造に細胞増殖抑制能を付加したデコリン様ペプチド医薬品の開発を目指し検討を行った。EGF受容体等への高い結合能が期待されるCX_3CXCX_6C構造を有する約10種類のデコリン様ペプチド医薬品候補物質を,独自に開発した「コンピュータ支援による創薬システム(特願2007-59268)」により分子設計したのち,それぞれ化学合成を行い,EGF受容体との生体分子間相互作用を表面プラズモ解析装置により測定し,物理化学的な物性を検討した。その結果,EGF受容体に対して,KD=1.4μMという極めて大きな結合力を有するデコリン様ペプチド医薬品候補物質を見いだすことができ,独自に開発した分子設計法の有用性を確認することができた。さらに,食道癌扁平上皮由来の細胞株(T.Tn)を用いて,デコリン様ペプチド医薬品候補物質が有する細胞増殖抑制効果を,MTTアッセイにより評価したところ,有意に細胞の増殖を抑制することが見出された。今後,デコリン様ペプチド医薬品候補物質の機能を化学修飾等により制御することにより新規分子標的薬が得られるものと期待される。
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