研究概要 |
我々は、アンギオテンシン変換酵素(ACE)にGPIアンカー型タンパク質を細胞膜表面から遊離する活性があることを見出した。正常型プリオンタンパク質(PrP)はGPIアンカー型タンパク質であることから、本研究では、異常PrPの発生防御法として、正常型を細胞表面より取り除くことを期待し、ACEを全身で強力に発現させたトランスジェニックマウスを作製し、これに異常型PrPを投与してACEのプリオン病発症への効果を実験病理学的手法で検討することにした。ACEは内在性のジペプチジルカルボキシペプチダーゼであり、従来から血圧上昇作用が知られている。したがって、これを全身に大量投与すれば、高血圧を招く危険性がある。以前の研究で我々はACEのペプチダーゼ活性を欠損させた変異体は試験管内でGPIアンカー型タンパク質遊離活性(GPIase)が完全に保存されていることを確認していた。そこで、本研究では、この変異体(H413K,H417K)を用いた。このコンストラクトをマウスの全身で強力に発現可能なCAAGプロモーターの下流に連結し、トランスジェニックマウスを作製した。樹立した7系統のうち、トランスジーンが最も大量に発現している1系統に異常型PrPを投与した。今回は、自然感染経路に近い腹腔内投与を行った。感染マウス脳乳剤を1%、0.1%に希釈したものを100μ1投与した。2年間の経過観察を行ったが、コントロールに比べて著変は認められなかった。これは、導入した変異体ACEが、試験管内で確認されたGPIase活性を生体内で発揮しなかったことによると考えられた(Deguchi, E. et al. Biol. Reprod.,77,794-802,2007参照)。今後は、ACEにかわるGPIase切断酵素を用いて本研究を再検討することが必要と考えられる。
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