研究概要 |
前年度の研究により,糖尿病自然発症マウスであるAkitaマウスの飼料にCdを0,10,25,50ppmのCdを添加し,16週間飼育した後にDNA microarrayを実施した結果,腎臓において,glutathiones S-transferase(GST)のいくつかのisozymeの発現が上昇していることが判明した。そこで,各GST isozymeのmRNAレベルを半定量的RT-PCRによって調べたところ,GST-A1,GST-M6の発現が特に上昇していた。しかし,この変化が糖尿病マウスにCdを摂取させたときにのみ起こるのか,Cdの長期曝露だけでも起こるのかについて不明であった。また,経時的な変化もわからなかった。そこで,本年度は,Akitaマウスの対照マウスに相当するC57B1/6マウスにCdを同様に摂取させて,腎臓でのGSTの各アイソザイムの発現を調べた。また,各濃度のCdを含む飼料を1,2,3,4ケ月間摂取させ,GST-A1の経時的な変化を調べた。 その結果,糖尿病マウスではなくても,Cdの長期摂取によって腎臓中GST-A1の発現が上昇することが明らかになった。また,この時,GST-alphaに対する抗体を用いて組織染色を行ったところ,腎臓の近位尿細管でGST-alphaが強く染まった。さらに,細胞質が強く染まる細胞,核が強く染まる細胞,両方が染まる細胞などに分かれることもわかった。一方,経時的な変化を調べた結果,腎臓中Cd濃度が30ppmに達するとGST-A1のmRNAが明らかに上昇し始めることがわかった。これは,腎障害が起こる臨界濃度とされる200ppmよりさらに低い濃度である。今後,この腎臓特異的なGST-A1の発現上昇が,Cdの毒性にどのような役割を果たすのか,また,糖尿病性腎症との関連はどうなのか,さらに詳細な検討が必要と考えられる。
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