研究概要 |
胆汁うっ滞症の治療にはステロイドホルモン,フェノバルビタール,コレスチラミンなどが経験的に使用されてきたが,その効果は不安定であり有効性も確立されていない. 漢方製剤インチンコウ湯(ICKT)は胆汁うっ滞や黄疸の治療薬に広く使用されている.我々は本剤の生薬成分であるgeniposideとその活性体であるgenipinの急性投与,およびgenipin,ICKTの慢性投与は有機陰イオン輸送蛋白であるmultidrug resistance-associated protein2(Mrp2)を介在した胆汁酸非依存性の強力な胆汁分泌促進(利胆)作用を発揮することが明らかとなった(Hepatology2004,Am J Physiol 2007).すなわち,genipinまたはICKTの長期投与ラットでは対照に比して,胆汁流量と還元型グルタチオン,ビリルビン,胆汁酸分泌量は有意に増加した.肝臓ではMrp2とMrp3のmRNAおよび蛋白発現レベルの有意の増加と,Mrp2の肝毛細胆管膜における発現が増加していた.これらの変化はICKT投与ラットで顕著であった.Mrp3はICKT投与ラット肝の門脈周囲領域で強い発現が認められたが,胆汁酸輸送蛋白であるBsep発現には変化を認めなかった.ビリルビン負荷試験にて,ICKT投与ラットにおける投与2時間後の血中総ビリルビンは有意に低下していた.ヒト肝細胞を有するヒト肝キメラマウスにおいても,ICKT長期投与のマウスでは対照に比して,胆汁流量の増加を反映し胆嚢腫大が認められた.肝輸送蛋白ではラット同様に,ICKT投与マウスでMRP2の蛋白発現量と肝毛細胆管膜における発現に増加が認められた. これらのことより,ICKTおよびその生薬成分であるgenipin(geniposide)の長期投与は,転写・翻訳の増加に加えて,post-transcriptionalメカニズムにてMrp2/MRP2の毛細胆管膜への集約を促進することにより,ラットおよびヒト肝において胆汁酸非依存性に胆汁分泌を強力に促進することが判明した.ICKTは胆汁うっ滞性肝胆道疾患の治療薬として高い有用性が示唆された.
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