研究概要 |
Hsp90は他の分子シャペロン(Hsp70、Hop、p23、cdc37)とともに複合体を形成し、クライアントタンパク質の安定化と機能発現に重要な役割を果たしている。Hsp90阻害剤はこうしたHsp90複合体の構造変化をもたらし、クライアントタンパク質のユビキチン・プロテアゾーム系での分解を促進する。我々はSBMA培養細胞モデル、マウスモデルにおいて17-AAGの薬理効果を詳細に検討し、17-AAGがHsp70やHsp40を中心とした抗ストレス作用を有するシャペロンの非特異的な増強作用を有するのみならず、SBMAの病因タンパク質である変異型ARの選択的な分解促進作用を発揮することを明らかにした(Waza et al.,Nat Med,2005)。特に後者の機序のように病因タンパク質そのもののが、Hsp90阻害剤の標的でかつその減少効果がもたらされれば、17-AAGの治療効果が最大限に得られると予想した。 今年度は、まずSBMAと同じくCAG繰り返し配列の異常伸張を病因とするハンチントン病、マチャド・ジョセフ病、歯状核赤核・淡蒼球ルイ体萎縮症の3つの病因タンパク質が、ARのように17-AAGの直接の標的になりうるかを免疫沈降法にて検証した。タンパク質の精製は野生型マウス神経組織、及びヒト神経組織由来であるSH-SY5Yから行い、沈降抗体と同種であるIgG抗体をコントロールとした。その結果、HuntingtinはHsp90および他の分子シャペロンとも結合しないのに対して、MJD1はHsp90と、またatrophinlはHsp90およびそのコシャペロンであるcdc37との結合が認められクライアントタンパク質である可能性が示唆された。ヒト疾患組織よりポリグルタミン鎖が伸張した変異型atrophin-1、MJD-1のクローニングに成功し、現在in vivoモデルへの展開を行っている。
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