研究概要 |
近年のゲノム・トランスクリプトーム解析により,蛋白質をコードしていないと考えられる非翻訳性RNA(non-codingRNA)のなかに,転写・翻訳レベルで遺伝子発現を制御している低分子RNAが存在していることがわかってきた。そこで我々は,肝星細胞の活性化,及び肝線維化において低分子RNAが重要な役割を演じているかどうか検討するため,ヒトの培養星細胞(LX2)をTGFβ1で刺激することにより変化する低分子RNAとラット肝星細胞の初代培養における低分子RNAの発現変化を調べた。 活性化星細胞のCollagen1A1の発現は,TGFβ1により調節されていることが知られている.ヒト星細胞株LX-2を用いた実験では,数種類の低分子RNAがTGFβ1で刺激した際に,Collagen1A1と同様,発現が上昇することが明らかとなった。同時にラット肝星細胞でも同じ数種類の低分子RNAの発現が変動した。そこで,それらの低分子RNAが制御している可能性のあるmRNAをSangerのデータベースより検索すると,そのうちの一つがCollagen5A2,Collagen5A3,FGF1に対して相補的な配列を持つことがわかった。V型コラーゲンは、I型コラーゲンと共に線維を形成しているので,これがV型コラーゲンを制御し,線維化でみられる星細胞によるI型コラーゲンの産生に影響を与えていることが考えられる。星細胞だけでなく,血中の線維芽細胞も肝線維化に関わることがわかってきているので,この低分子RNAによって制御されたFGF1によりそれらが活性化されて肝線維化に影響を与えることも考えられる。 現在,数種類の低分子RNAをin vivoモデルで強制発現させるためのウイルスベクターを作製する準備に入り,Cre-loxPシステムとcollagen promoterを用いて活性化星細胞にのみ特異的に発現させるためのベクターを完成させた。これらを用いて,胆管結紮モデルや四塩化炭素肝障害による肝線維化モデルでの低分子RNAの機能を明らかにする予定である。
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