研究概要 |
卵巣癌は婦人科悪性腫瘍の中でも最も予後不良の疾患であり、その要因の一つとして癌細胞の増殖がきわめて活発であることが指摘されている。本研究では、卵巣癌細胞の増殖機序におけるヘッジホッグ(Hedgehog)シグナル経路の関与について解析した。上皮性卵巣腫瘍において、Hedgehogシグナル分子(リガンドのShh, Dhh、受容体のPtch、細胞内分子のSmo, Gli)の発現を免疫染色にて検討したところ、いずれの発現も良性腫瘍に比し癌で亢進し、増殖マーカーKi-67発現と相関していた。さらに、Dhh発現が有意な予後不良因子であった。卵巣癌におけるHedgehogシグナル亢進の機序を遺伝子変異の面から解析したが、Ptch変異は認められなかった。 卵巣癌細胞株(A2780.A2780/CDDP.SKOV3,0VCAR3)、および卵巣癌の発生起源である卵巣表層上皮(OSE)細胞でHedgehogシグナル分子発現を検討したところ、OSE細胞ではPtch, Gli発現がなく、一方、卵巣癌細胞ではShh, Dhh, Ptch, Gliすべての発現亢進が認められた。 卵巣癌細胞にHedgehogシグナル阻害剤であるcyclopamineを添加したところ、その細胞増殖が抑制され、フローサイトメトリー解析にてGl arrestおよびアポトーシスをきたすことが判明した。卵巣癌細胞におけるHedgehogシグナル抑制による細胞増殖阻害機序をさらに検討したところ、CDK inhibitorであるp21,p27発現が亢進し、同時にcyclin A, cyclin D発現を抑制していることが判明した。 今回の研究により、卵巣癌細胞の増殖にはHedgehogシグナル伝達経路が深く関与しており、その活性化が患者の予後不良とも相関していることが明らかとなった。Hedgehogシグナル阻害剤が卵巣癌細胞の増殖抑制に有効であることから、今後、Hedgehogシグナルは将来の卵巣癌治療における新たな分子標的となりうると考えられる。
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