研究概要 |
CO_2レーサー刺激は操作が容易で、出力強度、照射方法を変えることによって、痛寛線維を選択的に刺激し、AδおよびC線維由来の体性感覚誘発電位(SEP)を記録できる。しかし今までに三叉神経領域を刺激して、短潜時体性感覚誘発電位(SSEP)を記録した研究はない。そこでわれわれはCO_2レーザー刺激を用いてAδ線維由来のSSEPの記録を試み、その臨床的意義を検討した。 健康成人のオトガイ部皮膚に、刺激強度18〜20mmJ/mm^2刺激間隔3s、パルス幅200msのC02レーザーを照射した。SSEPの記録は頭皮上、Cz の部位から導出し、潜時10〜200msまでのSEPを記録した。刺激回数は20回、加算平均は20回とした。その結果、潜時10〜50msに陰性-陽性の電位が認められた。さらにオトガイから大脳皮質までの距離と記録された誘発電位の潜時から神経・脳内伝導速度を算出した。算出された伝導速度は10.5m/sであり、得られた10〜50msの電位はAδ線維を介した成分と考えられた。下歯槽神経伝達麻酔を行ってオトガイ部を麻痺させると得られたSSEPが消失したことより、この成分がattention, distraction, prediction等の心理的因子によって生じた電位ではなく、神経線維への侵害刺激によって得られた成分であることが証明された。 以上のことから得られたSSEPは三叉神経脊髄路核を介した痛覚伝導を反映していると考えられた。従来、三叉神経領域の麻痺に対しては客観的、定量的な知覚神経麻痺を評価診断する方法が確立されていなかったが、三叉神経支配領域にCO_2レーザーを照射して得られるSSEP(潜時:10〜50ms)を記録することによって下歯槽神経などの麻痺性疾患のる麻痺、伝導傷害、アロデイニアなどの客観的、定量的診断法開発への応用が期待できる。
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