心拍変動を周波数解析することで得られる値のうちHF(nu)の値が、PSGで判定した覚醒・体動・REM・浅睡眠・深睡眠の5つの段階で差が出やすかったことから、初期の段階ではHF(nu)の値のみを用いて5つの段階の判定基準を作成した。しかしながら、その基準ではPSGとの一致率は高い場合でも80%以下であった。また入眠のタイミング(SleepOnset:SO)の判断や体動とREMの判断に誤りが生じることが多かった。そこで、SOについてはHRの変化を判定の指標に追加した。また体動とREMの判定については、これらの時期にはVLFとLF/HFの2つの値が他の睡眠期に比較して上昇するが、その上昇の割合が体動とREMでは異なるという特徴があったことから、その2つの値のバランスにより体動とREMを判定するという基準を加えることにより、PSGとの一致率を上昇させることができた。この基準により判定して描いた睡眠深度の経過図とPSGにより得られた睡眠深度の経過図とを、看護師資格をもつ第三者にどちらの方法で描いたものであると明らかにせずに提示し、睡眠サイクル数を判断してもらったところ、PSGでサイクルが不鮮明な症例を除き、判定したサイクル数はほぼ一致した。しかしながら、作成した基準では5つの段階は自動で判定できるが、SOはHRの経時的な変化のグラフを判定者が読み取って判断するため、入眠潜時が長いケースではSO時の変化が緩やかなことが多く判断しにくいという問題点が残っており、更なる基準の精錬が必要である。 心拍変動の周波数解析から得られた複数の指標と心拍数の変化からは、夜間の腕時計型の睡眠覚醒判定器械で得られる以上の睡眠に関する情報を得ることができ、睡眠の質の判定に有効であることかわかったことから、今後は健康成人以外を対象としたデータでも同様な基準で判定する方法を検討する。
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