研究課題
若手研究(A)
アミノ酸であるグリシンは抑制性神経伝達物質であり、グリシン受容体は脊椎動物の中枢神経に広く存在している。グリシン受容体を構成する分子には分子量48kDのα、58kDのβという2種類のサブユニットがあるが、受容体としてはαサブユニットのみから成る5量体とαサブユニット2つとβサブユニット3つから成る5量体があり、前者はシナプス局在できないが、後者はシナプスに局在し、シナプス伝達に関わると考えられている。ラットの培養細胞を用いた過去の知見から、グリシン受容体の凝集が受容体の活性に依存することが示唆されていた。本研究はゼブラフィッシュを用いて、グリシン受容体の凝集の活動依存性を解析することを目的とする。平成18年度はグリシン受容体凝集の時間経過を脊髄ニューロンで解析し、受精後24時間のステージでは凝集は観察されないが、48時間から96時間にかけてクラスターが増加し、96時間から120時間にかけて減少し、安定する特徴的な変動をすることを見いだした。ストリキニンはグリシン受容体を特異的に阻害することが知られている。発生過程のゼブラフィッシュにストリキニンを作用させてグリシン受容体を介する神経伝達を阻害すると、グリシン受容体のクラスターが見られなくなった。グリシン受容体遺伝子の転写、翻訳、また膜表面へのタンパクの発現には異常はないようで、凝集に異常があると考えられた。これはグリシン受容体の凝集が発生過程においても活動依存的であることを示すものでもあった。脊髄のニューロンで解析する限り、個々のニューロンの分裂や総数が問題になるので、平成19年度は特定の細胞でクラスター数を解析する実験系を確立する目的で、後脳に1対存在するマウスナー細胞に注目して、この同定可能ニューロンでグリシン受容体凝集を解析した。マウスナー細胞は抗ニューロフィラメント抗体(3A10)で染色される後脳第4分節の大きな細胞として同定できた。マウスナー細胞でも受容体クラスターは一過的に増加した後に一定数に落ち着く傾向が見られ、これも活動依存性を示唆するものであった。以上より、ゼブラフィッシュにストリキニンを加えるという単純な実験により、発生期のグリシン受容体凝集、すなわちグリシン作動性シナプスの形成を研究する新しい実験系が確立したと言え、現在その分子基盤の解析を進めている。
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