研究概要 |
昨年度までの報告において,高親水性を有する新規分離媒体として,水溶性架橋剤を用いるモノリス型カラムが有効であることを示した,しかしながら,昨年までの結果では,機械的強度の問題から実用に耐えうるカラムの作成が困難であった.そこで,本年度は水溶性架橋剤の種類をいくつか試すと共に,キャピラリー型カラムを適用することで,実使用に耐えうるカラムの調製,評価を行った.その結果,完全水系での使用に耐えうるカラムの作成が可能となり,さらに,核酸塩基,いくつかのタンパク質といった生体関連物質の分離が達成された. 次に本研究のもう一つの課題である,タンパク質の選択的分離については,まず,低分子に対する新たな概念を提唱した.従来の分子インプリント法では,構造柔軟性の高い物質には適用が困難であるとされており,柔軟な構造を有するターゲット物質に対しての新たな手法が求められている.そこで,ドウモイ酸と呼ばれる麻痺性貝毒をターゲットとして,三次元構造認識に起因する選択的認識能を評価した.その結果,単純な構造の鋳型分子を用いた場合でも,三次元的に官能基を認識することが示唆された.コンピュータモデリングの支持により,この認識はターゲット物質の構造変化が寄与していることが示唆された.つまり,ターゲット物質の構造変化に伴うエネルギーよりも,認識部位に取り込まれる安定化エネルギーの方が高い場合には,認識部位においてターゲット物質の構造変化が起こり,結果的に高い認識能となることが示された. この結果は,構造柔軟性を有するタンパク質をターゲットにした場合には非常に重要な現象であり,この概念を基に,水溶性の架橋剤を基材とたタンパク質インプリントポリマーを調製し,評価を行った.その結果,タンパク質インプリントにより調製した分離媒体を評価した結果,わずかではあるが選択的な分子認識能が確認された. 上記,本研究で得られた結果では,当初の研究目的であるモノリス型カラムと選択的タンパク質分離の双方を融合するには至っていない.それぞれの有効性を示すことができたため,今後,二つの技術を組み合わせることで,更なる発展を遂げる研究テーマになると考えられる.
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