研究概要 |
「研究の目的」は,チューブを装着された触角の運動様式を変化させるという空間知覚の関わる能力が,個体の生存に役立つことを示すことであった。そのために,次第に段差が大きくなる下り階段を用意した。段差があまりに大きいとき,視覚のないダンゴムシは,触角の長さを頼りにその深さを見積り,降りるか引き返すかを判断しなくてはならない。実験では,触角にチューブを装着し,その長さを伸長した。第1実験では,個体は5段の下り階段の最上段に置かれた。段差は,上から5,10,15,17mmであった。実験群の平均最大到達段数は3.8であった。実験後,個体は円形アリーナに移され,10分間自由な運動を許された。その後,第2実験が同じ手続きで行われた。第2実験での平均最大到達段数は2.7であり,第1実験のそれに比べ有意に小さかった。チューブを装着されなかった対照群では,第1及び第2実験の平均最大到達段数はそれぞれ2.6であり,有意な差はなかった。これらの結果は,ダンゴムシは,自由歩行中に伸びた触角の長さを知覚し,それを頼りに段差の距離を見積り,本来降りられない距離の段差は,例え伸ばされた触角が届いても,降りずに引き返したことを示唆する。このような距離知覚という空間知覚能が,普段遭遇する断崖の回避に役立っていると考えられる。この結果は,視覚のない動物に距離知覚があることを示した点で心理学的意義があり,またそれをダンゴムシで発見した点で,進化学的に重要である。 「研究実施計画」に記載された実験は上記の通りである。ICPA2007での昨年度の成果の発表は昨年度の報告書に記載された。ESF-EMBO Symposiumでの発表は,CASYS'07での発表に振りかえられ,成果は次項に示されるようにIntl J of Computing Anticipatory Systemsに掲載される。最終論文は作成中である。
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