研究概要 |
文字や単語を呈示しその認識を被験者に行わせる実験では左右の両側頭部,後頭部などの活動が観察される.このことは一般的に知られている言語優位半球が左側頭葉にあるとすることと一致しない.この理由は文字などを見た際の脳活動には,文字認知の過程における言語活動だけではなく,視覚的な処理などが含まれることが原因であると考えることができる.文字認知の時間的推移を調べる第一歩として,昨年度同様,マスキングの度合いを強中弱無の刺激4種を用意し,脳活動の中で文字認知に関する部分だけがマスキング度合に応じた活動をすると考え,その活動を脳磁界により計測した(被験者14名). 刺激は,平仮名2文字の単語(例:やま,かわ,みち等)・非単語(例:もぽ,きあ,てど等)の2つのカテゴリのうちからランダムで呈示し,続いて空白なし(マスク(強))・空白17ms(マスク(中)),34ms(マスク(弱)),約100ms(マスク(無))のいずれかとした後,マスク画像としてハングル文字を同位置に呈示した.被験者には,平仮名2文字が単語か非単語であったかを答えさせた. 空白時間とタスク正答率の間には明瞭な関係があり,空白時間が長くなるほど正答率は上がった. 210ms近辺で多くの被験者に左右の側頭部に活動が観察された.しかし,タスク正答率に明らかな差異がありながら仮名文字呈示後210ms近辺までの両側頭部の活動には,空白時間の変化に対応した反応はなかった.それに続く250-350msの左側頭部での活動は,タスク正答率が上がるにつれ,その活動も大きくなった.この活動に続いて,数人の被験者では右側頭部でも同様の活動が見られた. これらのことから,210ms以前の活動は文字認知の中でも言語処理そのものではなく前段階の処理の活動と考える.250-350msの活動が正答率と相関があることから文字認知の中でも言語処理の活動であると考える.
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