研究概要 |
ヒトのもつ協調的な社会的知性の進化的基盤を探るため,比較認知心理学的観点から,類人猿2種(チンパンジーとボノボ)における協力行動についての特徴を探り,両種間で比較する研究を実施した.チンパンジーを対象とした実験は,林原生物化学研究所類人猿研究センターでおこなった.前年度までにおこなった実験で得られた結果とあわせて,ビデオ資料を再解析した.他者との協力が必要となる複数の実験場面で,チンパンジーは最初からは他者と協力することをおこなわなかった.しかし,経験を経て,他者とタイミングを合わせたり行動を協調したりするようになった.その過程で,相手に視線を向けて行動を確認する行動をおこなったが,両者が互いに目線を合わせるアイコンタクトはほとんど成立しなかった.他者との意図を共有し,それをアイコンタクトで明示的に確認するという点において,ヒトとチンパンジーで違う可能性が示唆された.また,アメリカ・アイオワ州の研究施設グレイト・エイプ・トラストに赴き,協力行動に関する実験的研究を共同でおこなう体制を整えてデータ収集をおこなった.チンパンジーに比ぺてボノボのほうが概して平和的な社会を築いている.他個体との関係が競合的である要素の濃いチンパンジーに比べて,平和的なボノボのほうが,他者との協力が成立しやすい可能性が示唆された.ヒトの協力行動の成立の基盤にも,競合的側面を抑制して平和的な関係を築くことが重要であると考えられた.
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