研究概要 |
生体由来の目的の試料から蛋白質を同定する工程は、生物科学研究において必須のステップである。現在では、質量分析法(MS)と配列データベース検索を組み合わせた方法論がほぼ確立しており、基礎研究ばかりでなく、臨床マーカー探索などの応用分野にも利用されている。この方法論の適用に際しては、検索結果の中に含まれる多くの偽陽性ヒットの取り扱いと、最低一個のペプチド割り当てから同定の信頼性を確保することが重要な課題である。 本研究は、軽水素/重水素(H/D)交換反応によるペプチド分子の質量シフト、および質量シフト値を蛋白質同定の評価基準として導入することをおもな目的とした. 本年度は,昨年度までに確立した交換反応条件を液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析(LC-MS/MS)に適用することを試みた.重水(D_2O)中の重水素(D)の逆交換を抑えるため,溶媒ボトルを開放したまま溶媒に対して高純度ヘリウムガスを連続注入する装置を自作した.また,H/D交換情報を用いるデータベース検索アルゴリズムの開発は,次回以降の研究計画に残された. プロテオミクスをはじめとする生体高分子の網羅的解析の手段として,MSがおおいに活用されている.装置の質量分解能と精度の向上はいずれの分野においても重要な課題であり,これまでに国内外問わず多くの優れた機種が研究者の手に渡ってきた.本研究の目的のひとつは,上位機種に頼らずに測定方法の改良によって装置の性能を最大限に引き出すことであった.申請者は,このアプローチが研究全体の費用対効果の側面からみても意義があると考えている.
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