研究課題
若手研究(B)
これまで我々は、生物制御の重要な特徴として多様な環境変動に柔軟に対応できる可塑性に着目し、その制御手法を「複合制御」と呼んできた。複合制御の大きな特徴として、生物は同質な制御機構の時空間的な組み合わせにより異質かつ複雑な制御を実現し、可塑性を達成していると考えられる。本研究では、細胞レベルでの複合制御の理論構築を目指し、特に代謝系と遺伝子発現系における複合制御の計算理論および制御論理を提案した。はじめに、細胞レベルの同質な制御機構として分子間相互作用に着目し、分子間あるいは分子とDNAの確率的な結合および乖離という視点から、代謝系および遺伝子発現系の緻密な制御を統一的に捉え、その計算理論を提案した。この理論では、確率現象をマルコフ過程として表し、代謝系における触媒の活性度および遺伝子発現系における転写速度を確率遷移ダイアグラムからグラフ的に求めることができる。また、生物の制御が直面する大きな問題として、莫大な数の環境変動の組み合わせに対応しなければならないという点があげられる。細胞は限られた資源を用いてこれらの莫大な数の組み合わせに対応するため、複数の環境変動の同時発生に対する何らかの制御機構を備えていると考えられる。そこで、本研究では、その一つのメカニズムとして、生物は二つの独立な環境変動情報を統合するための制御論理を用いていると考えた。そして、生物学的意義の異なる独立な制御論理を数理的に分類し、各制御論理を用いる具体的な生物系の例から、その生物学的な意義を明らかにした。
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