研究概要 |
線虫の神経回路レベルで成立する嗅覚順応において、Ras-MAPK経路とGLR-1グルタミン酸レセプターが介在神経で重要な働きをすることが、以前の研究によりわかってきた。さらにin vitroリン酸化実験により、MAPKがGLR-1の616番セリンを直接リン酸化することが示された。それらの結果を踏まえ、本年度はGLR-1グルタミン酸レセプターのリン酸化に焦点を当てて解析を行い、以下の成果を得ることができた。 1. 616番セリンをアラニンに置換したGLR-1を介在神経に発現させても、glr-1変異体の順応異常が回復しなかったことから、この部位のリン酸化が順応に必要であることがわかった。 2. 616番セリンのリン酸化を認識する、抗リン酸化型GLR-1抗体を作製した。 3. 免疫組織染色実験を行い、順応が成立する条件の匂い刺激を与えたときに、介在神経においてリン酸化GLR-1の染色が観察されることを見出した。 また、生体内でRasの活性化をライブイメージングできる蛍光分子Raichu-Rasの、線虫神経系への導入を行った。まず、匂い刺激に応答してRasが活性化することがわかっている嗅覚神経AWCにRaichu-Rasを発現させた株を確立した。匂い刺激を与えてRaichu-Rasの蛍光変化を観察したところ、匂い刺激から数秒後にRasが活性化し、さらに数秒後に不活性化することがわかった。これらの結果は、Rasの活性化を生体内で観察した初の報告である。また、嗅覚神経AWCでは匂い刺激をなくしたときにカルシウムイオン濃度が上昇することが報告されている(Sreekanth et al,. Nature, 450, 63-70, 2007)。このことから、カルシウムイオン濃度の低下に伴ってRasが活性化する可能性が示唆された。
|