研究概要 |
1.せん断流場中での赤血球変形と損傷 (1)円錐平板型のせん断負荷装置を構築した.赤血球を高粘度溶液に微量添加した赤血球溶液を円錐平板間に配置し,円錐板の回転によりせん断負荷した.ガラス製平板の下側から対物レンズを通して高速度ビデオカメラにより,せん断流場中での赤血球の変形をフレームレート18,000fpsで記録し,画像解析から赤血球の短径長径比(SD/LD比)の時間変化を調べた.円錐回転速度を静止状態から一定速度まで急速に変化させ,赤血球にステップ状のせん断応力を負荷したところ,SD/LD比は静止時の初期値からせん断負荷直後(<50ms)に急減し,その後は定常値まで漸減する傾向が確認された.この結果は,赤血球の標準的な形状とされる両凹円盤形状と同程度に安定な楕円体形状が存在することを意味すると考えられる. (2)上記装置により一定せん断負荷した赤血球は,負荷時間が長くなるに従い,その内部の平均ヘモグロビン量が減少する傾向を示した.しかしながら,平均赤血球容積の変化は僅かであった.血球内からのヘモグロビン流出と同時に外部からの液体が流入している可能性がある.せん断負荷後のサンプルについて,走査プローブ顕微鏡により赤血球膜表面の観察を行ったが,明確な小孔は確認されなかった. 2.数値シミュレーション (1)赤血球変形の高速度顕微観察を通して得られた知見をもとに,18年度作成した赤血球変形モデルを修正した. (2)補助人工心臓血液ポンプに心室を組み合わせた計算機モデルを作成した.心室形状を簡単化した上で駆出率30%の心拍動を模擬した心室壁の移動を記述し,血液ポンプによる拍出補助時の心室内血流を解析した.ポンプから心室への逆流が心周期内で大きく変化する様子が明らかとなった.また,心室入口からポンプ出口までのせん断応力分布を算出した.
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