研究概要 |
昨年度までにPgpなどの膜タンパク質を介したがんの多剤耐性を克服するため,プロトンスポンジ効果を誘起するN,N-(dimethylamino)ethyl methacrylateと抗がん剤であるアドリアマイシン(ADR)を結合させるメタクリル酸10mol%導入した共重合体をラジカル重合により合成した。このポリマーにADRを化学的に導入して,白血病由来細胞K562とそのADM耐性株K562/ADMへの抗がん活性を調査し,作製したポリマーの多剤耐性克服能の評価を行った。結果として,作製したポリマーを細胞に添加しても,十分にK562/ADMの多剤耐性を低下させることが出来なかった。この理由として,ADRとポリマー間の距離が短いため,ポリマー主鎖による立体的なかさ張りによりPgpのADR認識が阻害されている可能性が示唆された。また,ポリマー自身が当初想定していた機序(エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれ,リソソーム内のPhが低下し,プロトンスポンジ効果により細胞質内に放出される)通りに取り込まれていない可能性も考えられた。そこで,ポリマーの細胞内動態を蛍光顕微鏡観察により調査した。顕微鏡観察用の細胞として,接着性の細胞であるMCF-7とそのADR耐性株MCF-7/ADRを用いた。それぞれの細胞においてポリマーの細胞内取込は確認された。しかしながら,リソソーム内にポリマーはほとんど見られなかったため,ポリマーはリソソームからプロトンスポンジ効果を利用して細胞内に移行するのではなく,別のメカニズムで入っている可能性が高い事が示唆された。ポリマーはアドリアマイシン単体とは異なる挙動を示し,核内へはほとんど移行せず,核近傍に局在する傾向が見られた。ポリマーの細胞内への移行は確認されていることから,ポリマーがPgpの基質としてより認識されるように,ADRとポリマー間のスペーサーを適度な長さに調整し,細胞膜もしくはその近傍に局在できるような疎水性部位を導入することで,多剤耐性の克服が可能となると考えられる。
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