研究概要 |
本年度は、昨年度確立した分析手法を用いて、晴天時下水処理水中の重金属の化学形態分析および溶存有機物による錯形成特性の詳細な解析を主として行った。さらに雨天時都市排水を想定し、道路塵埃の重金属による毒性を他の有害物質との比較の元に評価した。これらの調査結果は国内外の学会で公表した。 1 晴天時の都市由来有機物と重金属類の調査 晴天時下水処理水中の重金属の化学形態分析および溶存有機物による錯形成特性の詳細な解析を主として行った。 下水処理場の協力を得て、複数時期・複数箇所での下水処理水を入手し、毒性に寄与すると考えられる不安定態の重金属濃度を測定した。亜鉛4.8〜16.2μg/L、銅1.9〜3.3μg/L、ニッケル0.8〜0.9μg/Lが不安定態として検出された。さらに、処理水中の有機物を回収し、昨年度購入したボルタンメトリー法の元素分析計を利用して錯形成に関するパラメータを定量した。下水処理水中の有機物は、環境水中のフミン質よりも安定な錯体を形成することが示された。さらに、限外ろ過膜を用いた分子サイズ分画を行ったうえで同様にパラメータを求めたところ、亜鉛との錯形成において安定な錯体を作る結合部位は分子量500〜10,000に多く、銅の場合には分子量100,000以上の高分子物質に多いことが分かった。 2 雨天時都市排水由来の有機物とスペシエーションの関係 雨天時排水を想定し、道路塵埃中の重金属の形態と毒性に関して実験を行った。道路塵埃そのものおよび道路塵埃とキレート樹脂とを混合したものを水中に入れ、カイミジンコを用いた固層の毒性試験を行ったところ、キレート樹脂混合により、致死率の低下が認められた。この致死率の低下は、炭素系吸着剤やゼオライト添加の際よりも明確であり、道路塵埃中の不安定な重金属類の毒性に対する寄与が、疎水性有害物質やアンモニアなどよりも相対的に大きいことが分かった。
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