研究概要 |
本研究の目的は,野生生物における有機フッ素化合物(PFCs)の汚染実態および蓄積特性を明らかにし,peroxisome proliferator-activated receptor(PPAR)-cytochrome P450 4A(CYP4A)シグナル伝達系を介した毒性影響メカニズムを解明することである。LC-MS/MSによる分析から,ロシア・バイカル湖の固有種バイカルアザラシ(Pusa sibirica)の肝臓および血清中のPFCs蓄積濃度を明らかにした。これら蓄積濃度は,水棲哺乳類を対象とした既報値と比較して同程度あるいは低値であったが,PFNAおよびPFDAの肝臓への特異的な集積がみられた。また,幼獣のPFCs蓄積濃度は成獣と比較して高く,幼獣の低いPFCs代謝能あるいは母子間移行の可能性が考えられた。さらに,2005年に採取したバイカルアザラシ肝臓中のPFOS・PFNAおよびPFDA蓄積濃度は,1992年のそれらと比較して高く,バイカル湖におけるPFCs汚染の顕在化が明らかとなった。そこで,バイカルアザラシPPARα cDNAの単離を試みたところ,水棲哺乳類で初めて完全長PPARα cDNAの単離に成功した。バイカルアザラシPPARα発現プラスミドを導入したin vitroレポーター遺伝子アッセイ系を構築し,転写活性化能を測定したところ,PFOA・PFNA・PFDA・PFUnDAおよびPFOSによりPPARαは活性化された。また,PFCsの蓄積したバイカルアザラシ肝臓中では,PFNAとPPARαmRNA発現量の間に,PFNAあるいはPFDAとCYP4Aタンパク発現量の間に正の相関関係が認められた。これらことから,バイカルアザラシの肝臓中に蓄積したPFCsは,PPARα-CYP4Aシグナル伝達系に影響していることが強く示唆された。
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