研究概要 |
ビスフェノールAの母体への曝露が、胎児・乳幼児の脳神経系発達に悪影響を及ぼすことが示唆されている。代表者はこれまでに、ビスフェノールAの結合タンパク質としてプロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)を同定し、ビスフェノールAがPDIに結合することにより、タンパク質のリフォールディング活性、及び甲状腺ホルモン(T3)結合活性が阻害される事を明らかにしてきた。一方、ポリ塩化ビフェニル(PCB)が甲状腺ホルモンの働きを撹乱し、脳神経系形成に悪影響を及ぼすことが以前より示唆されているが、最近、PCBはヒトの体内で代謝されて水酸化PCBを生じる事が報告された。昨年度は、4'-hydroxy-2,3,3',4,5-pentachlorobiphenyl (OH-PenCB)と4-hydroxy-2,3,3',5,5',6-hexachlorobiphenyl (OH-HexCB)を用いた検討により、水酸化PCBがPDIのT3結合を阻害することを明らかにしたが、本年度はPDIのイソメラーゼ活性及びシャペロン活性への影響を検討した。PDIは2カ所の活性中心を有し、基質タンパク質の酸化・還元反応と異性化反応を行う活性中心は異なる事から、PDIによる還元型RNaseの酸化反応、およびスクランブル型RNaseの異性化反応における水酸化PCBの影響を検討したところ、酸化反応はOH-PenCBによって阻害されたが、異性化反応はPCB,水酸化PCBのいずれによっても阻害されなかった。この事から、水酸化PCBはPDIの基質タンパク質の酸化・還元に特異的に作用することが明らかとなった。次に、PDIのシャペロン活性への作用を検討したところ、OH-HexCBにのみ阻害が見られた。以上のことから、水酸化PCBによるタンパク質フォールディングの形成異常を引き起こすことが示唆された。
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