研究概要 |
本研究課題『単結晶グラファイトを用いたKr吸着膜の界面摩擦の研究』は単結晶グラファイト基板と単原子Kr吸着膜を用いて,基板原子配置に対する吸着膜の滑り方向を制御しながら整合相と不整合相での静摩擦状態と動摩擦状態とその転移の性質を明らかにすることを目的としている.本年度の研究実施計画に沿い,界面摩擦の膜構造依存についての実験を,振動方向とa軸のなす角度が0度の試料に対して行った.その結果,流体相では非常に小さい摩擦力が整合相に入ると急増し,整合相から不整合相になるところで摩擦力が小さくなることが明らかになった(Journal of Physics: Conference Series, 89, 012006(2007)).グラファイト基板上単原子吸着膜において膜構造による摩擦力の明瞭な変化が観測されたのは初めてであり、重要な結果であると考えている.さらに,不整合相において,密度を増していくと摩擦力が大きくなるという現象が観測された.また,複数の温度において摩擦力の膜構造依存を測定し比較したところ,不整合相において高温ほど摩擦力が大きくなることが明らかになった(日本物理学会2008年3月).不整合相においては,一部の吸着原子が第1層の上層に吸着することが知られており,高温になるほど上層の吸着原子が増加する.この上層の吸着原子が第1層に対してピン止め中心の役割を果たし,摩擦力を増加させている可能性が考えられる.このように,整合相・不整合相における界面摩擦の性質の詳細が明らかになりつつあり,静摩擦・動摩擦状態間の転移の性質を明らかにするために有用な知見が得られた.
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