研究概要 |
究極の極微メモリ素子"原子メモリ"の開発を目指して,単一量子スピンS(S≧1)の状態をスピン偏極電流により制御する模型を提案し,その特性について調べた。模型は,1軸性の異方性エネルギー"-DS^2_z"(双安定ポテンシャル,D=異方性エネルギー定数S_z=スピンのz成分)を持つ局在量子スピン5を,反平行にスピン偏極した2つの電極で挟んだ系とした。ここでは,電極間を伝導する電子のスピンと局在スピン間の交換相互作用により,局在スピンが反転するか否かについて考える。特に伝導電子が(1)単一電子トンネリングの場合および(2)連続的なトンネリングの場合に注目する。それぞれの結果は次の通りである。 (1)単一電子トンネリング まずスピン反転および単一電子トンネリングが起こるバイアス電圧・ゲート電圧の領域を明示した。次にこの電圧領域に対して,時間に依存するシュレーディンガー方程式を解き,存在確率の時間依存性からスピン反転にかかる時間を解析的な表式としてもとめた。さらにこの表式から反転時間の上限と下限の表式を交換相互作用,電極の準位数を用いて表した。 (2)連続的なトンネリング 電子系とスピン系の模型に加えて,局在スピンを持つ原子および電極内原子の振動,さらにスピンーフォノン相互作用を考慮しな。この相互作用によりスピンの緩和時間が取り入れられた。フェルミの黄金則とマスター方程式を用いて,局在スピンの期待値,電流の時間依存性を求めた。結果として,スピン反転の有無はスピンの緩和時間に大きく依存した。特に緩和時間が0.1ns未満のときば,S=3/2,5/2ではスピン反転が起きるものの,S=1,2では反転が生じなかった。この相違はスピン系の最高エネルギー準位の縮退の有無に起因する。具体的には,縮退があるS=3/2,5/2の系は,縮退の無いS=1,2の系に比べて反転を促進する遷移の確率が大きくなる。
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