研究概要 |
まず、カーボンナノチューブの発光特性について環境の効果について調べた。微細グレーティング構造を形成した石英基板上にカーボンナノチューブを成長し,架橋カーボンナノチューブ構造を得るとともに,様々な誘電率の異なる有機溶媒中に浸潤し,フォトルミネッセンスを測定した。その結果,ナノチューブの励起子遷移エネルギーが環境の誘電率の増加に伴って,べき乗則で低エネルギー側にシフトすることを見出し,それが電子間反発相互作用の誘電遮蔽効果に起因することを明らかにした。なお,電子・ホール結合相互作用の誘電遮蔽効果に比べ,電子間反発相互作用の誘電遮蔽効果の方が大きいことが示された。また,カイラリティに依存してエネルギーシフトの大きさかが異なることを見出し,それが電子・正孔の有効質量に起因することを明らかにした。 また、ナノチューブを有機溶媒中に浸潤した場合に発光強度が減衰することを見出し,その原因をフェムト秒時間分解フォトルミネッセンスから調べた。励起強度相関法による時間分解測定系を構築し,赤外域においてフェムト秒の分解能で時間分解発光計測を可能とした。大気中においては,減衰曲線は2つの指数関数の和で表され,早い寿命が26ps,遅い寿命が293psであった。媒中においては,大気中に比べて相関信号が減衰するとともに,寿命が5psと大幅に短くなった。このことから,ナノチューブと有機溶媒の界面に再結合中心が形成されることが示唆され,ナノチューブと吸着分子との相互作用の理解が課題であることを明らかにした。 一方,1本の架橋ナノチューブをチャネルとするナノチューブトランジスタを作成する技術を開発するととともに,そのフォトルミネッセンスと光電流を同時に観測することに成功した。これらのバイアス電圧依存性から、1本のナノチューブの光吸収断面積を明らかにした。また、基板上に配置したナノチューブの場合、架橋ナノチューブに比べて、光電流スペクトルの半値幅が大きいことを見出し、基板とナノチューブの界面において、ナノチューブのバンド構造を変調する機構が存在することを明らかにした。 これらの成果はナノチューブの表界面について重要な知見を明らかにしており、9編の論文(解説論文3編を含む)にまとめられている。
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