原子分解能を実現する球面収差補正高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)を用いて、ナノ構造物質の原子分解能観察を実現するためにカーボンナノチューブを試料支持体として活用するための基礎研究を行った。本年度は、単層カーボンナノチューブ(SWNT)をナノ構造体の支持体として用いるために重要な課題である、ナノ構造物資内包SWNTのTEM像からSWNTの像のみの選択的除去を、フーリエ変換をベースとした画像処理により、検討した。TEM像構造モデルを用いてマルチスライス方により行ったTEM像シミュレーションでは、支持体となるSWNTの像のみを効果的に除去できることがわかった。ただし、それが可能なときは、最適焦点条件である2nmよりもさらに数nm外れたところでの像の撮影が必要であることがわかった。これは、前年度明らかにできた、球面収差補正TEM像ならではの特徴である、わずか2nm以内の深さ分解能を生かした三次元構造直接観察は難しいものの、本研究の目的である、原子レベルの十分な空間分解能で、ナノ構造物質単体の像観察が可能なことを意味する。実験では、CCDカメラのナイキスト周波数や像強度に起因して、カーボンナノチューブのFFT図形の十分な強度、鮮明度を得るのが難しかったため、フーリエ回折パターンの得やすい、より結晶性の高い基板(酸化マグネシウム)上に白金-ロジウムが一次元鎖状に配置した分子を坦持し、これを球面収差補正TEM観察することで、坦持体コントラスト除去によるナノ構造体単体高分解能観察の有用性を検証した。通常数nm程度もある基板上にわずか一原子レベルの厚みの構造体が存在しても、そのコントラストは基板の回折コントラストに埋もれてしまうにもかかわらず、本結果では、少なくとも運動学的近似の成り立つ範囲では基板のコントラストをきわめて単純な画像処理によって除去でき、わずか数個の白金およびロジウム原子が連なった一次元鎖の各原子が明確に像観察できることを示した。
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