ヒト肝細胞株Huh 7 は、自然界にあまり存在しない希少糖であるD-アロースにより、細胞の増殖抑制効果が見られ、G1期での細胞周期停止の可能性が示唆されている。細胞周期制御には様々なタンパク質のリン酸化関与していることはよく知られており、リン酸化が大きく変動するタンパク質の決定を試みた。D-アロース投与前後の細胞抽出物から、リン酸化タンパク質をphos-tagで精製し、SDS-PAGEで展開した後、LC-MS/MS法でそのタンパク質同定を行った。その結果、PDIR5 (protein disulfide isomerase-related protein 5)やtumor protein D52-like 2を含む12種のタンパク質にリン酸化亢進の可能性が認められ、これらが細胞増殖抑制に関与していることが示唆された。 また、TXNIP (thioredoxin interacting protein)のリン酸化部位の解析を行った。この遺伝子は、当機関の医学部・細胞情報生理学講座において、マイクロアレイを用いた実験により、D-allose投与48後に約10倍上昇することが知られている。TXNIPは、p38 MAPK とCaMKIVによるTXNIPのリン酸化の完進が見られたので、どの部位がリン酸化されているかをLC-MS/MS法で調べたところ、リン酸化部位の候補として、p38 MAPK ではT348あるいはT349、CaMKIVではS236とS315が挙げられた。これらのリン酸化が、D-アロースによる培養細胞の増殖抑制効果に関わっているかもしれない。
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