研究概要 |
本研究では,近年,外来種の移入や環境破壊などの影響を受けて急速に個体群が消失している(絶滅危惧II類)ニホンザリガニを対象として,環境や空間スケールの違いによって機能的役割がどのように異なるかを明らかにした。 道央と道東においてニホンザリガニが生息する河川を3河川ずつ選定し,人工水路(30×60cm)を用いて、ザリガニ排除区と開放区の2つの実験処理区を作成した。各水路には,ミヤマハンノキならびにイタヤカエデのリーフパックを設置し,単一河川(2処理区×4反復×2地域)および地域(積丹3河川vs.釧路3河川:2処理区×3反復)の2つの空間スケールにおいてリーフパックの残存量の時間的変化を追った。 実験の結果,道央では解放区と比べてザリガニ排除区でリーフパックの分解が早く進行したのに対し(排除区:2.8-4.1%/日,解放区4.6-5.4%/日),道東では反対に,ザリガニ排除区と比べて解放区においてリーフパックの分解がより早く進行した(排除区:0.4-0.7%/日,解放区0.7-0.9%/日)。また,道央では落葉分解者であるヨコエビが全底棲無脊椎動物の大部分を占めていたのに対し,道東ではヨコエビがほとんど認められなかった。従って,道央では落葉分解者としてはヨコエビが主要な役割を果たしているが,ザリガニがリーフパックにアクセスすることでヨコエビの現存量が低下し,落葉の分解速度が低下したのに対し,道東ではザリガニが主要な分解者であることから,ザリガニのアクセス下でより早く落葉分解が進行したと考えられる。一方,地域スケールの解析では,ニホンザリガニの排除の有無によって落葉分解率に差が認められなかった。 従って、ニホンザリガニの生態影響は,在来生物群集の構成によって,また地域によって大きく異なり,局所(河川)スケールの食物網構造の形成と生態系プロセスに大きく影響を及ぼすことが明らかとなった。
|