本研究は、カナダのガバナンスや行政改革を主たる手掛かりとしながら、「新しい行政責任(論)」のあり方を解明せんとするものである。具体的には、大きく三つのテーマに取り組み、それぞれ一定の知見を得た。 第一に、カナダにおける政府対市民セクター間の関係。主に「VSI(Voluntary Sector Initiative)」)(なかでも「Accord」とよばれる協定)に注目し分析した。結論を一言すれば、一応の成果は見られるものの、特にイギリスの「Compact」(「Accord」に相当)とは対照的に、政府の取り組み姿勢、市民セクター側の体制などに課題を残している。 第二に、「行政責任」に関わるカナダ行革の動向。彼国では、あるスキャンダルを契機に「Federal Accountability Act」なる法律まで制定され、様々なアカウンタビリティ確保策が講じられている。これは、(いわば政治改革も含む)実に多方面に及ぶ取り組みである。本年度は、それ以前からの取り組みも含め、事実関係を正確にフォローすることに力を注いだ。 第三に、上記と並行しながら(無論、その成果も適宜取り入れながら)、「新しい行政責任(論)」についての思索を続けた。いまだ新理論構築とまではいたらぬものの、下記の二点が確認されたことはその礎を築くものとして意義深い。一つは、今こそ「行政責任のディレンマ」に真正面から取り組むべき秋(とき)であること。いま一つは、昨今隆盛の「協働」ないし「対等」ではなく、「対抗」の視座から市民対行政関係を再構築すべきこと。なお、「11.研究発表」として掲げた拙稿は、後者の試みの一つである。
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