本研究では、中国の地域間格差の収束性について、(1)マルコフ連鎖を用いた所得分配アプローチを用いて、中国全体の将来的な所得分配構造を明らかにする。(2)収集可能な各省別データを用いて、同様のアプローチを適用し、類似点、相違点を明らかにする。(3)さらに可能であれば、マルコフ連鎖を用いたアプローチを応用し、所得以外の格差分析への応用を試みる。以上3つの方向で研究を進めてきた。 まず(1)について、データを2005年まで拡張し、改訂後のデータを使用して再計算した成果を完成させた。改訂後のデータを用いた場合でも省間所得格差は拡大傾向となり、所得分配構造は2極分化となる傾向を持つことが判明した。また、マルコフ連鎖を用いた収束分布の計測においては、貧しい所得階層に分布が集中する形で、弱い2極分化構造となっている。 次に(2)について、1990〜2005年までの上海市、江蘇省および浙江省といったいわゆる長江デルタ地域の市、県レベルのデータを用いて研究を行った。この結果、中国で最も経済発展が進んでいる長江デルタ地域の域内においても所得格差が拡大していることが記述分析で判明したが、マルコフ連鎖を用いた収束分布の計測においては、豊かな所得階層に分布が集中する結果となっている (3)について、過去の人口センサスなどにおける地域間の人口移動表のデータを用いて、地域間の人口移動の将来予測を、マルコフ連鎖を用いて計測した。人口移動により、過度に人口が集中する省(主に広東省)と減少する省とに分かれることが判明している。
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