研究概要 |
本研究は,世帯における規模の経済を考慮した家計の異時点間消費配分に関する最適化行動から導かれる関係式を前提に,その集計量(対数平均・対数分散)がみたすべき関係式を回帰することで,未知の等価所得比率を推定し,適切な等価所得調整の大きさ,ならびにわが国における世帯の規模の経済の大きさを計測するものである。 本年度は,前年度までの予備的研究を踏まえ,「国民生活基礎調査」(厚生労働省)から作成された疑似パネルデータを用い,非線形制約をおいたDeaton-Paxson equationの推計と,オイラー方程式との同時推定を試み,本研究の最終的な研究成果を雑誌論文として公表した。 得られた主な知見は,以下の通りである。第一に,世帯消費の不平等度を先験的等価所得比率によって調整することは,場合によってはミスリーディングをもたらすということである。とくに,世帯における規模の経済を考慮せず,世帯消費を世帯員数で除して一人当たり消費とすることは,ライフサイクルにおける不平等度の蓄積について誤った統計的帰結をもたらすことが明らかとなった。第二に,世帯消費を一人当たり消費に調整する際の等価所得比率としては,世帯員数の0.3乗程度が望ましいという結果が得られた。 ただし,家計の異時点間最適化行動を前提とすると,今回推計した等価所得比率は世帯における規模の経済を直接推計したものではなく,その推計のためには家計の選好(異時点間の代替の弾力性)を適切に推計する必要がある。いくつかの方法を試行したが,異時点間の代替の弾力性について安定的な推計値が得られなかった。この点は今後の研究課題として残される。
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