研究概要 |
本研究の目的は、自発的な会計情報の開示が市場の価格形成に及ぼす影響を理論面・実証面から明らかにすることである。本年度は、資本市場の価格形成モデルのサーベイを進め、論文「情報開示と資本コストの関係に関する理論的研究の動向」としてまとめた。論文の概要は次の通りである。情報開示と資本コストの関係に関する理論研究が本格的に行われるようになったのは、1980年代後半以降であり、初期の理論研究ではDiamond and Verrecchia (1991) (Diamond, D. W., and R. E. Verrecchia. 1991. Disclosure, liquidity, and the cost of capital. Journal of Finance 46, 1325-1359.)が代表的である。それ以降、現在に至るまで、多くの理論研究が行われたが、研究によってモデル設定の詳細や関心の焦点は大きく異なっていた。実証研究がこれらの理論研究に依拠して実証モデルを構築する際には、モデル設定や仮定を十分に考慮する必要があることが明らかになった。実証研究では、データの入手可能性が分析内容を左右することが多いが、理論研究が導いた結論(実証研究が検証する仮説)の前提であるモデル設定を十分に考慮した実証モデルを構築することが、実証研究の妥当性を高めるうえで不可欠である。理論研究では概して、情報開示の増加が資本コストを低下させる理由やプロセスを解明することに焦点が置かれていた。それぞれのモデルは、情報トレーダー、非情報トレーダーの性格や、タイムラインの構成などに類似点が多く見られる一方、研究の目的、関心の焦点が研究によって異なることを反映して、各研究に特徴的な点も多かった。例えば、近年では、企業による情報開示のレベルを外生変数でなく内生変数とした文献などが観察された。
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