本研究の目的は、監査人が、同一の被監査会社と、監査サービス契約と非監査サービス契約とを同時に締結している場合に当該非監査サービスの提供が監査人の独立性に与える影響について、経済学的なモデル分析を行なうとともに、監査実務における非監査サービスの影響とその対応について明らかにすることである。 本研究の概要はつぎのとおりである。 1)監査人をエージェントとし、株主と経営者をプリンシパルとするコモン・エージェンシー・モデルを想定して、監査人が同一の被監査会社と監査サービス契約と非監査サービス契約とを同時に締結している場合に生じるエージェンシー問題(監査人のモラル・ハザードの問題)を明らかにした。 2)先行研究のモデルに基づいて、監査サービス契約と非監査サービス契約とを同時に締結したとしても、一定の条件を満たすことによって、監査人の独立性は保たれ、真実の監査報告がなされることを示した。すなわち、本研究では、非監査サービスの提供が必ずしも監査人の独立性を侵害するとは限らないことを析出している。 3)監査人に支払われる非監査報酬と利益操作との間に正の相関があることを示して非監査サービスが監査人の独立性を損なうことを証明した実証研究がある一方で、市場ベースのインセンティブにより、非監査報酬が監査人の独立性を損なうことはないとする実証研究があるなど、非監査サービスが監査人の独立性を損なうか否かについての先行実証研究の結果は必ずしも一致していないことを指摘した。 4)企業の経営活動がグローバルに展開している昨今においては、監査人の独立性を確保するための全世界的なシステムが不可欠であるが、すでにこのような管理システムを社内に整備している大手の会計事務所では、当該システム運用維持管理に膨大なコストを要しており、監査人の業務そのものに支障をきたしかねない状況にあることを指摘した。
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