2007年度は、昨年度に行われた進化シミュレーションの結果を踏まえ、協力行動に関する頻度依存的傾向がいかなる状況下で進化するのかを理論的・実証的に検討した。具体的には、多層淘汰モデルを用い、個人間淘汰圧に対する集団間淘汰圧の強さを様々に変更した進化シミュレーションを行い、そのシミュレーションの結果を踏まえた実験を行った。進化シミュレーションの結果、集団間淘汰圧の強い状況下で頻度依存的傾向がより進化しやすいことが分かった。また、頻度依存的行動が可能な状況と不可能な状況を比較すると、前者でより内集団への協力率が高いことが明らかとなった。続いて、以上の結果が実証データでも得られるかどうかを確認するため、場面想定法を用いた予備的な実験を行った。実験では集団間競争状況に直面している場面について記述した4つのシナリオを実験参加者に提示し、自集団への協力意図や自集団が勝利するためのメンバーの協力度の見積もりについて訊ねた。独立変数は集団間淘汰圧の強さと集団内の協力率(自分以外のどの程度の他者が協力の意図を持っているか)であった。進化シミュレーションの結果より、集団間淘汰圧と頻度依存傾向がともに高い時に自集団への協力傾向が高くなるという予測を立てたが、実験の結果その予測は支持されなかった。集団内の多数派が協力している状況で、より協力の必要性が認識されやすい(すなわち、同調の圧力を感じやすい)という結果が得られた。
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