研究概要 |
本研究では、読み習得(reading development)の初期段階にある幼児を対象に、習得における必要条件の一つとされている音韻意識(phonological awareness)の生成と発達の問題を扱った。従来の研究のように領域一般的な能力として音韻意識を捉えるのではなく、個々の子どもの経験に応じた音韻意識の形成パターンがどのように現れるかを記述したうえで、それを規定する要因を検討し、初期読み発達への影響を明らかにすることを目的とした。 以上をふまえ、子どもの語に対する親近性と音韻分解様式との関連について分析するため、2007年度に北海道大学大学院教育学研究科附属子ども発達臨床センターにて実施した第1実験の追加データを、愛知県内民間保育園にて3歳児を対象に収集した。その結果、語の音韻分解様式には一般的なパターンにとどまらない多様性が存在することが改めて明らかになった。この結果は、音韻分解様式単語ごとに形成されるとする語彙再構成モデル(Lexical restructuring model ;Walley, et. Al.,)2003)を支持するものと考えられる。いっぽうでそれを規定する要因として、当該の語に対する親近性を考える仮説は支持されなかった(松木・伊藤,2007;伊藤・松本,2008)。この結果を受けて、個々の子どもの経験が音韻意識の形成に反映されるパターンを探るため、音韻分解様式を揺さぶるであろう経験を特定のことばあそびを通じて導入し、形成される音韻分解様式との関連を検討する課題を第2実験として北海道大学大学院教育学研究科附属子ども発達臨床センターにて4歳児を対象に実施した。この結果は現在分析中であり、2008年9月に開催される日本教育心理学会第50回総会で報告の予定である。 なお、本研究の遂行全般にあたり、伊藤崇氏(北海道大学大学院教育学研究院・助教)に研究協力者として助力を得た。
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