研究概要 |
事故の防止という観点から考えると,エラー数の低減と同様,「エラーをした事にすぐに気づくかどうか(エラー反応のモニタリング)」や「エラーへの注意配分」も重要な問題である.近年,エラー反応の脳内モニタリングを反映する事象関連電位(ERN:error-related negativity)と,エラーに対する注意配分量を反映する事象関連電位(Pe:error positivity)が発見され,エラー反応に対する認知的処理過程に関する研究は急速に増えている.しかし,これらの変数と眠気との関連を検討した研究はごく少数である.これまでに,夜間の全断眠や覚醒時間の延長によって,エラーに対する認知的処理が傷害されることが知られている.そこで,本課題では,起床直後に一時的に眠気が残る現象(睡眠慣性)が,エラー反応に対する認知的処理にどのような影響を与えるかを検討した.日中被験者に1時間の仮眠をとらせる条件と,1時間の休憩をとらせる条件を設定し,仮眠直後と休憩直後に実施した認知課題中のERN,Peの振幅を比較した.その結果,ERNの振幅には違いが認められないものの,Peの振幅は仮眠直後の課題中において減少していた.さらに,課題中のエラー数や反応時間に条件間で違いが認められないにもかかわらず,仮眠直後の条件においては課題成績の自己評価が高くなっていた.以上のことから,睡眠慣性が生じている際には,自分がエラーを犯したこと自体には気づいているものの,そのエラーの重要性を低く評価する傾向にあることが示された.
|