研究概要 |
わが国では高等教育のユニバーサル・アクセス時代を迎え,従来型の「伝統的学生」を前提にした高等教育システムの制度設計と大学等の現状との間の乖離が徐々に明らかになってきた。大学における教授・学習行動を秩序立ててきた「学位制度」もまた,多様な就学目的,学習意欲を有する「新しい学生層」の参入により,これまで暗黙裡に果たしてきた機能の融解・変容が懸念され,「学位の質保証」が政策的課題となっている。本研究では,「新しい学生層」の事例として,大学への転編入学生,短期大学専攻科等での学修を経て大学評価・学位授与機構で学士の学位を取得する学生に着目し,かれらが抱える学修上の問題点,学士取得(学歴)に対する価値観,学位取得の社会的効用等を調査することにより,従来型の学位の機能と現状との齟齬を明らかにする。さらには,今後の高等教育システムにおける大学と非大学高等教育機関との相互関係(境界設計),学位と学位以外の資格証明との等価値性・互換可能性について検討することを目的としている。 平成20年度には,多様な学習履歴を経て学士の学位を取得した者のうち,とくに平成17年度に短期大学および高等専門学校の専攻科を修了した者(修了後5年が経過した者)を対象に,専攻科進学の動機,専攻科在学中の学習経験,修了後の進路等に関してアンケート調査を実施した。この調査は,他の研究プロジェクトにおいて大学卒業後5年後の者を対象にした調査と同一の質問項目を設定することにより,一般的な大学卒業者との比較を可能にした。この調査の結果,とくに教育内容が類似していると考えられる,高等専門学校専攻科修了者と大学の工学部卒業者を比較したとき,修了直後では高等専門学校専攻科修了者の方が,自らの教育経験への満足度,学修達成度に対する評価が高いにもかかわらず,5年を経過した後にはその差はきわめて縮小もしくは逆転すること等が明らかになった。大学と大学以外の高等教育機関における学修成果の相違についてはさらに分析を行う予定である。
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