研究課題/領域番号 |
18730556
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研究種目 |
若手研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
研究分野 |
特別支援教育
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
山中 冴子 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (90375593)
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研究期間 (年度) |
2006 – 2007
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研究課題ステータス |
完了 (2007年度)
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配分額 *注記 |
1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
2007年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
2006年度: 600千円 (直接経費: 600千円)
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キーワード | オーストラリア / インクルーシブ教育 / 障害児教育 / インテグレーション / ニューサウスウェールズ州 / インクルージョン |
研究概要 |
オーストラリアの障害児教育施策が連邦政府レベルで進められたのは、1970年代からである。長年の保守連立政権による親米路線と決別し、アジァ太平洋地域で活路を見いだそうとしたウィットラム労働党政権は、白豪主義の撤廃に伴って社会資源の再配分を目指した。社会参加を平等に保障するための教育機能に大きな期待をかけた同政権は、各州の自律性のもとにある義務教育段階に積極的に「介入」する中で、障害児も教育対象として公的責任のもとに把握されるようになり、各州既存の教育環境を整備するための連邦政府による助成システムが確立していった。もともと、広大な土地に人口が散らばっている同国では通常学級で学ぶ障害児が少なくなかった。更に、国連の障害者関連の宣言や、国際障害者団体の同国支部の結成など国際動向にも後押しされ、インテグレーションは1970年代半ばから連邦政府レベルの施策に登場した。ほぼ同時期にノーマライゼーションにもとづく障害者施策全体の見直しによって地域の視点を獲得し、それを補強するために1992年に「障害者差別禁止法」が制定されたことは、その後に渡るインテグレーションをより強力に推進する素地を形成した。以上のように、1970年代の主要課題であった教育の機会均等化が通常学級でもはかられる必要が、ノーマライゼーションによって正当化された。とはいえ、具体的な展開は各州の下にあり、連邦政府レベルでインクルージョンとかインクルーシブ教育という言葉が明確に用いられている訳ではない。 ニューサウスウェールズ州では、1990年代に入ってからインテグレーション・インクルージョンと言葉を並べて、これらの実現に向けたこれまでの総括を本格的に行った。そして現在、インテグレージョン・インクルージョン(これらを政策レベルで明確に使い分けているとは言い難い)を前面に押し出すのではなく、分離教育の必要性を認めながら、「障害者差別禁止法」にある「合理的調整」を機能させつつ、通常学級で学ぶための必要条件を可能な限り整備している。この姿勢に対して強烈に批判する団体もあるし、分離教育を薦められた子どもの保護者が「障害者差別禁止法」の解釈をめぐって州教育省と争う裁判も起きている。とりわけ「問題行動」が激しい子どもへの対応が実践レベルでは課題となっており、そのような子どもの分離教育は逆に増えている。「合理的調整」やそれに伴う「不当な負担」、そして「問題行動」は、同州のインクルーシブ教育の方向性を左右するキーワードと言えよう。
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