研究概要 |
本研究の目的は、数理生物学に現れる関数方程式の定性的性質を明らかにすることである。本年の研究実績の概要は以下のようにまとめられる。 1.あるタイムラグを有するロトカ・ヴォルテラ微分方程式に対し,内部平衡点が大域的漸近安定となるためのタイムラグの条件を導出し,He[Dynam.Contin.Discrete Impuls.System(2000)]の結果を拡張した.また,数値シミュレーションを用いて新しいタイプのカオス的振る舞いを発見した.(11の論文1). 2.パッチ間の個体の移動時間(タイムラグ)を考慮に入れた微分方程式を考察し,自励系モデルの場合と周期的なモデルについて大域安定な共存平衡点の存在条件と種が絶滅する条件を明らかにした.特に自励系モデルに関する結果はTakeuchi[Acta.Appl.Math.(1989)]を拡散バージョンの方程式に拡張し,周期的なモデルにおいては,大域的に安定な正の周期解の存在を証明した.(11の論文2). 3.伝染病の蔓延と人口の移動中における感染との関係を数学的に明らかにした.従来研究では伝染病の蔓延と人口の移動の関係についての研究成果は多く報告されている(cf. Wang&Mulone[J.Math.Anal.Appl.(2003)]やWang & Zhao[Math.Biosci.(2004)])が,「移動中での感染」に注目した研究は本論文が初めて.(11の論文3). 4.生物の拡散と環境の周期的変化を考慮に入れた微分個体群モデルに対し、食物の豊かなパッチと食物の乏しいパッチをもつ環境において生物種が永続するための十分条件と周期解の存在を示した.(11の論文4、5). 5.一種類の餌食と,若齢個体と成熟個体という2つのステージ構造を有する捕食者との相互作用に関する研究論文.若齢個体は自ら捕食せず成熟個体の捕食量から餌を与えられるとき,若齢個体から成熟個体へのステージ推移率のもつ栄養摂取量依存性が,周期解の出現や共存平衡点の安定性スイッチをもたらすことを明らかにした.(11の論文6) 6.「密度効果で再生産や成長速度を抑える」という仮説の下,植物プランクトンの競争モデルにおいて内部平衡点が安定的に存在するための必要十分条件を導出した。これにより、1種類の制限資源でも無数に多くの種がロバストな共存(初期条件に依らない強固な共存)が実現することを示唆した.(11の論文7)
|