研究概要 |
本報告は,2年計画の最終年度に関するものである。前年度では,使用する観測装置であるJapanese VLBI Network(JVN)の整備と,観測ターゲットであるNarrow-Line Seyfert 1 galaxy(NLS1)をJVNで観測するための観測手法の発明と実証をおこない,論文として発表した。これらの準備をふまえ,今年度ではJVNでNLS1の科学観測を実行した。NLS1は活動銀河のなかでも電波放射の大変暗い種族であるため,これまでほとんどNLS1は電波観測されておらず,本観測は大変先駆的な挑戦となった。NLS1 5天体を発明した観測手法Bigradient Phase Referencingを適用して観測し,すべて検出することができた。観測によって,輝度温度10の7乗ケルビン以上の非熱的なシンクロトロン放射をする成分がNLS1に付随していることが初めて明らかになった。放射体はおそらく相対論的ジェットである。NLS1のような質量的小さなブラックホールに急速な質量降着がおこっている系でも,ジェットが生成されていることの観測的証拠が得られたのである。本結果は,降着現象の理論に対して重要な示唆を与えるものである。研究は論文としてまとめられ,本年度のうちに出版された。 このNLS1の初めてのVLBIによる系統的な研究を発展させて,NLS1に非常に性質の近いと考えられているBroad Absorption Line Quasar(BALQSO)という活動銀河核の種族の調査にも着手した。この種族を観測することによって,NLS1の理解の助けとするためである。BALQSOもまた電波放射の弱い種族であり,これまでほとんど電波観測のされてこなかった天体であったため,これも大変先駆的な挑戦となった。JVNのサブアレイであるOCTAVEを用いて,BALQSOを23天体観測した。結果21天体を検出し,これらにも非熱的放射をするジェットが付随していることが初めて明らかとなった。この結果は日本天文学会で発表され,学術論文としても投稿直前となっている。総じて,科学研究費補助若手Bによる本研究は,大変先駆的な観測に挑戦・成功し,当初の目標を上回る成果を挙げたといえる。
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