前年度に引き続き、50mK〜1K程度の温度範囲において2次元Au基盤上に吸着したヘリウム4超流動薄膜に対してQCM測定(20〜180MHz)を行い、超流動密度とエネルギー散逸の温度変化と超流動転移の周波数依存を研究した。測定データと動的コスタリッツ-ザウレス(KT)理論との定量的な比較・解析から、180MHzという高周波極限に近い周波数まで動的KT理論で説明されることが分かった。さらに渦対の解離に伴う散逸ピークの温度の周波数依存から、動的KT理論を特徴付ける量子渦の微視的パラメータD/ao^2(D:拡散係数、ao:渦芯直径)の値を10^9〜10^<10>S^<-1>程度と見積もった。Au基盤の実験と過去に行われたマイラーシートのねじれ振り子測定との比較から、量子渦の微視的パラメータD/ao^2の値は強い基盤依存を示すことが分かった。一方で、新規に1次元的に細孔が配列したナノシリカ多孔体SBA-15(細孔直径4.1nm)を付着したQCMの開発に成功し、SBA-15中に吸着したヘリウム4薄膜の吸着状態と超流動転移温度の周波数依存を12-28MHzの範囲で研究した。Au基盤と同様の解析から、エネルギー散逸ピーク温度の周波数依存は動的KT理論とよく一致し、量子渦の微視的パラメータD/ao^2をAu基盤とマイラーシートとの中間の5×10^8s^<-1>程度と見積もった。この強い渦パラメータの基盤依存は、基盤よってはQCM法によって動的KT理論の枠組みを超えた周波数領域での実験の可能性を示唆している。
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