研究概要 |
UIrで観測される圧力誘起超伝導の対称性を実験的に明らかにすることを目的に,我々のグループは研究を行っている.本年度の成果は以下のとおりである. FM2強磁性相が出現する圧力範囲において,[010]の方向の電気抵抗率から見積もられる残留抵抗率ρ_0の値は著しく上昇する.さらに加圧を続けると,FM3強磁性相が基底状態となる圧力付近でρ_0は急激に減少し始め,最終的にρ_0は,FM1強磁性相における常圧での値とほぼ等しくなる.一方,[101]および[101]方向のρ_0にはこのような異常が見られない.これらの振る舞いは単純な磁気的散乱では説明できないことから,FM2相の出現する圧力域で1次の相転移が起こっており,この相境界付近では[010]方向に高圧相と低圧相が層状構造で相分離した状態が出現している可能性が高いことを指摘した. そこで,この推測を確かめるために,[010]の方向の電気抵抗率を圧力中で精密測定した.その結果,上述の相転移に対応すると考えられる電気抵抗率の異常を観測した.このことは我々が予見した相転移の存在を強く示唆するものである.この電気抵抗率の異常は,室温でも2.5GPa付近で観測されることもわかった.新たに発見された1次相転移の正体を明確にするため,SPring-8のBL10XUビームラインで高圧下粉末X線回折実験を行った.粉末試料を熱処理し,粉末化に伴う歪を除去することに成功したため,回折ピークの線幅は以前の測定より著しくシャープになったが,回折パターンの詳細な解析から,結晶構造の対称性の変化を示すような異常を観測できなかった.このことは新たに発見された1次相転移で,結晶構造が変化したとしても非常に僅なものであるということを示唆しており,圧力誘起超伝導相での結晶構造の対称性は空間反転対称を持たないと考えられる.
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